早池峰に登る前に知っておいてほしいこと~地元ガイドの視点から

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その1:ストックの使用はなるべく控えてください

早池峰山では、二つの理由からできるだけ登山用ストックを使わないようお願いしています。一つは高山植物の保護のため、もう一つは登山者自身の安全のためです。
高山植物保護のために
早池峰山の植物は岩塊のすきまにわずかに積もった土に根を張って生きています。先の尖ったストックを使いその土に穴を開けてしまうと、そこから土壌が崩れて結果として植物も枯れてしまう恐れがあります。登山者がストックをついた跡を見ると、すべる岩の上では安定しないためでしょう、やはりわずかな土の部分についています。そして何人もが同じ場所についています。どうしてもストックが必要な方は先にゴムキャップをつけて使ってください。登山用品店で数百円で売っています。
ストックは早池峰山では危険
また、ストックの使用は安全上からもお勧めできません。早池峰山の登山道では大部分で蛇紋岩の岩の上を歩くことになり、平らな面はほとんどありません。高さのまちまちな岩の地面に決まった長さのストックをつくことはかえって疲れることになります。ストックを使った歩行は表面が平らなロングトレイルなどで発達したもので、早池峰山には不向きです。河原の坊コースでは御座走り岩から上で、小田越(おだごえ)コースでは二合目と八合目(鉄梯子)付近で急な岩場になっており、四肢を使って登るような場所があります。こうした場所ではストックは何の役にも立たず、かえって危険です。横着して手首にストックをぶら下げて岩場にとりついている人をよく見かけますが、転倒すれば手首の骨折、または間違って後ろの人に突き刺す恐れもあります。下山の際にも急な岩場でストックを使うことは注意力を分散させるためかえって転倒の危険が増します(これは去年NHKの試してガッテンでも指摘されていました)。早池峰の地元ガイドはツアーを案内する時にはストックをバスの中に置いて行ってもらっています。それでも事故は起きていませんし、お客さんの不満は聞いたことがありません。

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その2:河原の坊コースを下山するのはおすすめできません

河原の坊コースを下りるのは危険
早池峰には山頂に至るいくつかの登山コースがありますが、アプローチの便利さから登山者は河原の坊コースと小田越コースの二つのルートに集中しています。そのうち、河原の坊コースについての地元での共通認識を書いてみたいと思います。河原の坊コースは小田越コースに比べて傾斜が急なため、登山道の崩壊が進んでおり浮石も多くあります。河原の坊コースを下山に使うことは転倒や落石の危険が大きく、小田越コースを下りるよりも疲労も大きく時間もかかるため、特に初心者は下山には使わない方がいいというのが地元の認識です。登山ガイドブックの中には小田越から登り河原の坊に下りるコースをすすめるものもありますが、地元では疑問視されています。
一番安全なのは小田越コースの往復ですが、同じところを往復するのはつまらない、また駐車場が河原の坊にしかないなどの理由から周回したいという方は、河原の坊コースを登り、小田越コースを下山することをおすすめします。河原の坊から登るのには体力や技術に不安があるという方は小田越往復がよいでしょう。河原の坊から登ることに不安を感じるレベルの方は下ったら余計に危険です。無理をせず余裕を持って行動した方が景色も花も目に入ります。(これは初めて早池峰に登る人向けに書いていますので、エキスパートを自認する方はどうぞ勝手にどちらからでも歩いてください。)
ツアーは小田越へ下山を
旅行会社のツアーでも小田越から登り河原の坊に下りるツアーをよく見かけますが、大人数が一列に連なって急斜面を下りることは落石事故の危険を増大させます。ツアーの場合、河原の坊から登り小田越に下山しても貸切バスでお客さんを回収できますから、河原の坊コースを下りるメリットは特にありません。河原の坊への下山はやめてほしいものです。
悪天時の対応
大雨の時には河原の坊コースは沢が増水し渡渉が出来なくなることがあります。ぬれて滑りやすくなった岩場を下りることも危険ですので、雨天時には小田越コースを下山したほうが無難です。ただし、強風時には小田越コースの方が河原の坊コースよりも風が強く吹きますので、頂上で強風に見舞われた時は気をつけて河原の坊へ下りた方がよいです。そもそも大雨や強風が予想される日に山に登るべきではないことは言うまでもありません。

その3:カーナビを信じるな~早池峰へのアプローチ

近年多いのが、マイカーで泊まりながら各地の山を渡り歩く登山スタイルです。早池峰にも夏の間日本全国遠方から車で登山者が訪れます。マイカーやレンタカーで東北自動車道を利用して早池峰に来る場合ですが、カーナビの案内が、紫波ICで高速を下り県道25号紫波川井線を通って折壁峠を越え早池峰ダムに至るルートを選択することがあるようです。ところがこの折壁峠ルートは道幅が狭く、登りも下りも急な山道となっていて時間も燃料もかかってしまいます。大型車はすれ違いも出来ません。現実的なのは、下りるのは紫波ICでも花巻ICでもよい(北から来る場合は紫波が、南から来る場合は花巻がよい)ので国道396号に出て遠野方向へ走り、花巻市大迫町で早池峰ダム方向へ左折するルートです。こちらの方が広く緩やかな道ですのでストレスも少なく、所要時間も短くなります。国道396号を遠野方向へ、花巻市大迫町大迫付近まで進んでください。大迫の産直(アスタ、ミルク工房ボン・ディア)を過ぎ、右側にJAのスタンドがある交差点を越したら次の角で左折してください。このルートならボン・ディアの名物ソフトクリームや飲むヨーグルトを食べ損なうこともありません(?)。

その4:ハヤチネウスユキソウとミネウスユキソウの違い
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これを知らずに帰ると損
早池峰山を登山者が訪れる大きな理由の一つがハヤチネウスユキソウを見ることです。この早池峰山の固有種は、6月下旬から7月中旬頃には登山コースのあちこちで見られますが、初めての人はちょっと注意が必要です。というのは、同じウスユキソウの仲間で、ミネウスユキソウという植物も生えているからです。慣れれば簡単に見分けがつきますが、初めてウスユキソウの類を見る人の中には、ミネウスユキソウをハヤチネウスユキソウだと勘違いしたまま満足して帰ってしまう人も多いのです。違いは、花のように見える部分(総苞片=そうほうへん)がハヤチネウスユキソウのほうが大きく、また表面の毛が長いことです(写真左:ハヤチネウスユキソウ 右:ミネウスユキソウ)。できれば登山前に図鑑を調べておくか、河原の坊登山口のビジターセンターで予習してから登ることをおすすめします。

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